「Infused Analytics」全く新しい第三世代BIツール
オリンピックの開催は、世界で最も複雑かつ大規模なプロジェクトの一つです。16日間の日程で開催される大会競技のため、少なくとも7年間の事前準備と、その後の約1年間の計画が必要になります。
この間、各都市のオリンピック組織委員会(OCOG)は、大会の企画・運営に関する膨大なデータを収集します。この時期に蓄積されるデータや知識情報は、オリンピックの開催国にとっても、将来の大会開催国にとっても、非常に大きな価値を生み出します。これらデータから得られる知見は、各大会の計画と実施を成功に導くだけでなく、将来のオリンピック組織委員会が独自のビジョンを策定する助けにもなります。また、開催都市とその市民が、オリンピックがもたらす長期的な影響からどのように利益を得られるか、生まれるチャンスとリスクをどのように管理するかなどを理解する上で役に立っています。
2000年以降、国際オリンピック委員会(以下IOC)はデータの収集と分析に対して、ますます構造化されたアプローチを実践してきました。IOCの情報・知識・競技学習チーム(Information, Knowledge, and Games Learning、以下IKL)のアソシエイト・ディレクターであるChris Payne氏は次のように説明しています。
「私たちが扱っているデータですが、ビッグデータと呼ぶより、スモールデータと呼ぶほうがしっくりきます。なぜなら、扱うデータのほとんどが、オリンピックに関係する人とスポーツ競技環境に関する限定されたデータだからです。IKLチームでは、主なデータソースから約1TBのデータを収集します。また、オリンピック組織委員会から収集した400を超えるデータセットもあります。加えて、50以上の他機関に追加データセットを依頼し、通常、数百のデータセットを扱っています。」
これらのデータはすべて、学習と知識管理に不可欠です。「データと分析はオリンピックにとって新しいものではありません。何年にも渡って何らかの形で使われてきました。発展し変化し続けるオリンピックの大会競技、その大会を管理し実施するためにデータを使うことの重要性、これが、私たちが取り組んでいる新しいことです。」とPayne氏は説明します。
2012年のロンドンオリンピック以来、大会主催者はデータの収集・管理方法の改善に取り組んできました。
「今後、より効果的な大会運営を行うためには、より正確に測定し評価する必要があるという認識が広まりました。」とPayne氏は言います。「オリンピック事務局長のChristophe Dubi氏は、オリンピックを正しく測定し評価できなければ適切な運営はできない、という考え方に強い信念を持っています。」
このため、IOCは技術・情報部門に、IKLチームを設置しました。IKLチームのミッションは、「オリンピックの実施に関連する革新的かつ総合的な学習を積極的に利用促進し活気づけること」です。そのため、IKLの主要な原則の中には、知識情報はIOCの最も重要なビジネス資産であり、本委員会で働くすべての人は、複数の情報源から質の高い知識情報にアクセスする権利を持つナレッジワーカーである、という大原則が含まれています。
「最高情報責任者であるIlario Corna氏の強力なサポートにより、IKLは組織委員会から多くのデータセットを収集するだけでなく、構造化されたデータの取得をより多く行っています。」とPayne氏は言います。「大会をサポートするために、さまざまなシステムが使用されています。私たちは、主要な運営データを生成するコアゲームマネジメントシステムに重点を置いているため、当然ながら、これらのデータセットをより深く研究し、関心を持つようになりました。オリンピックの大会運営をさらに最適化する方法を学ぶため、それらのデータセットを紐解き、分析することに専念しています。」
導き出された分析結果は、非常に価値のあるものになっています。「大会の参加選手とスポーツ競技がオリンピックの中心であり、競技スケジュールは大会のすべてを左右します。そのため、私たちが知見を深めようとしているのは会場の運営です。たとえば、さまざまな関係者がいつ移動するのか、会場スペースがどのように使われているのか、などです」。
IOCは主要な大会運営者のために「分析モーメント」を準備することを計画しています。分析エンジンを構築することで、データをワークフローに統合し、技術者ではないチームメンバーが、データに基づいたより賢明な意思決定を行えるようにしたい(技術者のサポートなしに)と考えています。
「このデータの民主化は、私たちにとって本当の意味でゲームチェンジャーになるでしょう。」とPayne氏は言います。「データリテラシーを向上させたいのであれば、良いものを見せなければなりません。そのようなデータによる閃きの瞬間を経験するとき、人は非常に満足を感じます。」
将来のオリンピック競技は、さらにエキサイティングだとPayne氏は言います。「例えば、ロサンゼルスには、最先端の技術でデータ接続された会場がいくつかあります。そこには、会場から信じられないほど詳細なデータと分析結果を得ることができます。」
最先端のWi-Fiシステム、IoTセンサーなど、技術的に高度に接続された会場からのデータは、大会の運用方法に大きな変化をもたらし、今後さらにデータからの学習の機会を与えてくれるとPayne氏は信じています。
「ロサンゼルスにあるさまざまなスタジアムが、実際に地元の会場でスポーツイベントを開催しています。それぞれの会場の提供方法は、本当に素晴らしいものです。ロサンゼルスの組織委員会と早い段階から関わることで、プロスポーツにおける経験の一部から恩恵を受けることができます。」
※本記事は、「The Data Behind Tokyo 2020: The Evolution of the Olympic Games」を翻訳・加筆修正したものです。